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Photo by Hitesh Choudhary on Unsplash

NFT — 可能性と問題点

まずはじめに NFT とはなにか簡単に説明します。

NFT とは

NFT とは Non-Fungible Token の略で、ブロックチェーンを応用した技術のひとつです。日本語では非代替性トークンと訳されますが、従来のブロックチェーン技術との違いはまさにその非代替性にあります。

ブロックチェーンは基本的にはデータベースです。ビットコインのような仮想通貨を例にとると、そのブロックチェーン上には誰と誰との間でいくらの移動があったかという取引情報が保存されています。現実世界の通貨においてあなたが持つ 100 円玉と僕が持つ 100 円玉の区別をつける必要がないのと同様に、ビットコインであってもそれぞれのアセットの区別をつける必要はありません。これを代替可能(=fungible)と呼びます。

その一方で世の中には代替不可能なものも存在します。一例としてアート作品を想像してみてください。モナリザのコピーは世の中に多数存在しますが、オリジナルはルーブル美術館にある一つだけです。あなたの持つモナリザのコピーをルーブル美術館のオリジナルと交換することはできません。これを代替不可能(=non-fungible)であると言います。NFT を使ったブロックチェーン上にはそれぞれのアセットを表すユニークな ID とその所有者のマッピングが保存されており、そのブロックチェーンを見ればある作品を所有しているのが誰なのか知ることができます。また、仮想通貨と同様にその所有権を移動させることも可能です。

アート作品がしばしばオークションを通して売りに出されるのと同様に、NFT でもオークションを通して所有権が売買されます。それこそが今 NFT 界隈で起こっていることです。ただし違いはそこで売買されているのがモナリザのような絵画ではなく、画像や映像といったデジタルデータだということです。

なぜ NFT が盛り上がっているか

デジタルなデータが物理的に存在するモノと圧倒的に異なる点は、オリジナルをコストゼロで簡単にコピーできることです。cmd+c を押すだけで本物と全く同じものを無数に作り出すことができます。それゆえ、これまでデジタルデータは実物のように「所有する」ということができませんでした。

そこに出現したのが NFT です。

さきほど説明したように、NFT を使うことによりブロックチェーン上に"誰が何を所有するか"の情報を書き込むことができ、一度書き込まれた内容を勝手に書き換えることはほぼ不可能です。NFT によりデジタルデータを実物のアート作品と同様に、コレクションとしてあるいは投資対象として「所有する」ということが可能になった、というのが NFT がこれだけ盛り上がっている大きな理由です。

このことは NFT がデジタル作品を手がけるアーティストを支援する強力なツールとなる可能性を示しています。これまで著作権という保護はありながらも、無断でコピーされたものから生み出された利益がその作成者に還元されることはありませんでした。残念ながら NFT はその問題自体に解決策を与えてくれるものではありません。しかし「NFT を通して所有権を売る」という、アーティストが収入を得る新たな手段を生み出しました。加えて多くの NFT プラットフォームでは売買のたびに出品者に手数料が入る仕組みを導入しており、売買が行われる限り継続的に収入を得ることができるという実物の取引にはないメリットもあります。

ここまでをみるとデジタルな創作物に正しい評価が与えられるすばらしい発明、と考えられます。しかし実態は少し異なっているようです。

「アーティストがお金を稼ぐ手段」が増えてハッピー?

一見すばらしい仕組みにみえる NFT ですが、問題もいくつか抱えています。

1. 誰でも出品できるという欠陥

先述のとおり一度ブロックチェーンに書き込まれた内容は変更することができません。そのため正しい情報を書き込むことが大切です。デジタルデータを扱う NFT の場合は「クリエイター=出品者」であることが求められますが、これを保証してくれるはずの認証システムの信頼性にはプラットフォームによってばらつきがあります。Rarible という NFT プラットフォーム上では、アーティストがある日起きたら自分の作品が勝手に出品され、売買さえも完了していたという事例3が実際に発生しています。また別の NFT プラットフォームである OpenSea は「爆発的に増加した出品リクエストに対応する」と言う名目で認証システムを一切無くしました3。あるいは盗作や二次創作物などの出品を防ぐ有効な手段もありません。

クリエイターに新たな収入源を与える一方で、違法者やモラルを無視した人にも等しくその利便性が与えられては仕方がありません。

2. 「所有権」というものの曖昧さ

NFT における「所有権」とは実際に何を指すのでしょうか。ブロックチェーン上の各ブロックにはそれがどういった作品なのかという情報が書き込まれなければいけません。しかしブロックチェーンに書き込むことができるデータのサイズには限りがあり、作品をそのままデータとして記録することができません。そこで多くのプラットフォームでは作品への URL(正確には作品の URL を含むメタデータへのリンク)だけをブロック上に記録します。この作品へのリンクをもって所有権というものが成立しています。

しかし URL を使うことには大きな問題があります。もしそのリンクをもつサービスが停止してしまったらどうなるでしょうか。ブロックチェーンは残りますがそこに書き込まれたリンクは無効となり、もうアクセスすることはできません。何を所有しているかわからない「所有権」だけが残ることになります。所有権を URL を使って表現することには信頼性という点で疑問が残ります。

いくつかのプラットフォームではこの問題に対応するため、ブロックに IPFS のトークンを書き込む方式を採用しています。IPFS とは Inter-Planetary File System の略で、ファイルを分散ホスト上に展開し、peer-to-peer システムによりアクセス可能にする技術です。IPFS 上のファイルは URL のような場所を特定する情報は持たず、唯一性をもつトークンのみが与えられます。そしてそのファイルをホストするサーバーが一つでも存在する限りファイルが失われることはありません。

しかしこの IPFS にも問題があります。作品のメタデータは分散して保存されており失われることがありませんが、肝心の作品データが特定のサーバー上にしか存在しないということがあります。URL を使ったケースと同様に、そのサーバーを運用するサービスが停止した時点でそのデータにアクセスすることはできなくなります。

NFT のコンセプトの発案者 Anil Dash はこのブロックチェーンにリンクだけを書き込む方式を"shortcut"としています4。その"shortcut"はコンセプトの発案から 7 年たった今も使われ続けています。 NFT における「所有権」とは現状、いつなくなるかわからないとても脆弱なものです。

3. 環境負荷という問題

ブロックチェーンに新たなブロックを書き込む際の環境負荷という点も見逃せません。多くの NFT プラットフォームではデジタルデータを Ethereum という、すでにあるブロックチェーン上に書き込んでいます。この Ethereum というブロックチェーンは、データの改ざんを防ぐためにプルーフオブワークという仕組みを採用しています。このプルーフオブワークにはマイニングという作業が必要になるのですが、このマイニングにはとてつもない量の計算が必要となります。大量の計算にはそれに見合うだけの電力を必要とします。Ethereum が年間に消費する電力量はベラルーシが年間に消費する電力量に匹敵するといわれています5

これは Ethereum というブロックチェーンが抱える問題であるため、NFT 自身の問題とはいえません。しかし NFT が注目を浴びることで利用者が増え、Ethereum でのマイニング作業がより必要となることで結果的に環境に与える負荷が高まるのは間違いありません。事実今年に入ってから Ethereum の電力消費量は激増しています5

NFT が向かう先

「NFT を通したアート作品が$69m で落札!」 といったセンセーショナルな話題に振り回されていますが、NFT は本来アーティストを保護し、支援するための仕組みだと Anil Dash は述べています。NFT という技術が大きな可能性を秘めているのは間違いありませんが、出現してから日が浅く、未だ多くの課題を抱えているのも事実です。一過性の話題として消費されるにとどまらず、技術が円熟し有益なものとして利用可能になるのを期待しています。


参照